「紡ぐ家」

は古い一軒家に住んでいる。
一階はリフォームしたため、白い壁、清潔感のある水回りがあるが、昔ながらの急な階段を上がって二階に行くと、そこは木のにおいに満ちている。柱にはマジックで背丈が書いてあり、開けた窓からのぞくのは瓦屋根。古い本が本棚を埋め、日焼けした背表紙は時間の経過を教えてくれる。
 
私の祖父母の住んでいるところは田舎だったが、最近では希薄になったお隣さんづきあいなどもまだ多くあり、町を歩けばおはよう、お帰りと声をかけてくれるいい町。老朽化の進む家を改修しようと、貯めた資金を投じて始めたリフォームだったが、その完成を待たず、祖父は天国へ行ってしまった。
5年前に祖父ががんで急逝した時には、すでに1階のリフォームが始まってしまっていた。
それから、5か月ほどで、1階のリフォームが終了した。祖母はどうしても、祖父との思い出のある二階の改修はしたくなく、結果、安全を確認した上で二階はそのまま残すこととなった。
祖母はその新しさと古さの同居する家に一人ぼっちで住むことになってしまった。
 
私は親元を離れ、単身東京でフリーランスのライターをしながら住んでいた。祖父母の家に行くこともあまり多くはなかったが、それでもたまに帰った時には一抹のさみしさを感じていた。
私の小さかったころは、道で花火をしたり、祖父と買い物に行ったり、祖母と料理をしたりした。あの懐かしい台所も、遊び場も、今はもうない。
「新しい家も住みやすくていいわ」
「そう?」
あるとき祖母と話をしていたら、にこりと笑ってそんなことを言った。
「段差もないし、おばあちゃんだから大変だもの」
「そっか」
「でも、せっかくきれいにしたからね。上もすればよかったのかもしれないけど」
「わたしは、二階、すきだよ」
「そう?」
柔らかく微笑む祖母が見ていたのは、祖父の思い出だったのではないだろうかと、今は思う。
 
それからしばらくして、祖母が私の実家で同居することになった やはり年齢も年齢だし、一人で暮らさせるのが不安だという、父と母の要望だった。
祖母は家を売りに出す決意をしたという。
「売るの? 家」
「買い手がいればね。やっぱり、取り壊すのは、ちょっとねえ」
「そうだね……」
「でも、ほら。二階もまだ改修してないじゃない? 田舎の一軒家だし、買い手がいるかもわからないし。もし売れなかったら取り壊して土地だけにして、不動産業者が買い上げるって言ってたわ」
「......そっか」
意外にも、という言い方は適切ではないかもしれないが、祖母の家はすんなりと売約が決まった。隣町の人が移り住みたいということだったとか。老夫婦で、家を大事にしてくれそうな二人に、祖母は決意を固めたようだった。私はこっそり、その老夫婦にお願いをしておいた。
 
それからさらに、何年かの時が経って。
私に、一本の電話がかかってきた。
「もしもし」
「お約束のことで」
電話口の声は、祖母に似た優しい声色だった。
「はい」
「夫も亡くなって、私もあなたのおばあ様と同じように引っ越すことになったので、お約束通り、このおうちをあなたに売ろうと思います」
「ありがとうございます」
私はあの時、約束していた。
おそらく老朽化の進んだ家は次の販売では買値がつかないだろう。ついても相当安価になるに違いない。それでは、大事な家が壊されてしまう。
大切な祖母の家を、いつか買い取れるように。
そしてその約束は無事果たされることになった。
いたるところに思い出のしみこんだ家。
この家は、私が祖母から「購入する」という形で、譲り受けた「たからもの」。
 
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