『あやしい訪問者』

然だけれど、ぼくは、父さんと母さんの本当の子供じゃあない。でも、僕が1歳になるころ、父さんと母さんがぼくを病院からもらってくれた。
弱っていたぼくを、父さんと母さんは優しく支えてくれた。まるで本当の両親みたいに。実を言うと、まだ小さかったぼくは、本当の両親の姿は覚えていない。でも、それでもかまわないと思っている。ぼくを貰ってくれて、支えてくれる父さんと母さんが、僕にとっては両親だから。
ぼくに与えられた家は、家族と、愛で満ち溢れた幸せの住処だった。
ぼくが5歳になるくらいのある日。スーツ姿の怪しいやつがよく家に来るようになった。
そいつは父さんよりも背が高くて、黒いスーツを着ていて、眼鏡をかけていた。ぼくがその男に近づこうとすると、父さんと母さんはぼくをちょっと怒った。怪しい男が来たとき、ぼくは隣の部屋にいるように言われる。
父さんと母さんは怖がっている様子はなくって、その男がくるとだいたいはニコニコしていたけれど、ぼくはそいつが嫌いだった。
だって、ぼくと、父さんと母さんの家なのに。幸せの家なのに。部外者が入り込むなんて嫌だった。
怪しい男が帰ってから、ぼくは父さんと母さんにあの男は誰名乗って何度も聞いたけれど、ふたりはぼくの頭を撫でるだけで教えてくれることはなかった。

またある日、あの怪しい男は知らない人を連れてきた。しかも二人も!
父さんと母さんよりも若いふたり。ぼくは探偵になって様子を見にちらっと顔を出した。女の人が僕に気付いて、あら!とぼくの方へ近寄ってきた。ぼくの頭を撫でて、かわいいですね、とか言っている。う、うれしくなんてないぞ。母さんはそうでしょう、自慢の息子なんですよ。って言ってくれた。それはうれしい。ぼくはうれしくて、母さんのところへ走っていった。
母さんはぼくを抱っこすると、二人と怪しい男を、家のいろんな所へ連れて行った。ますますあやしい。ぼくの探偵としての勘が怪しいって言っている。なんとか知らせないと!と母さんを見たけれど、母さんは微笑んでいるだけだった。

それから何日かたって、父さんと母さんは不思議なことを始めた。家の中を片付け始めたんだ。お片づけはぼくも得意だから、手伝おうと思ったけれど、父さんが止める。お前は気にしないでご飯を食べてなさい。だって。ぼくだって気になるのに。
3日もすると、家の中がとってもきれいになった。きれいになったというよりも、物がなくなった。父さんと母さんは、最後に残ったテーブルで、ご飯を食べている。
ふたりはにこにこしていた。なんでだろう。

その次の日、ぼくはびっくりすることになる。青い服を着たたくさんの男の人が、父さんと母さんの荷物を外へ運んで行ったのだ!
やめろ!と、ぼくはその人たちを止めようとしたけど、父さんが僕をだっこした。何で止めるんだよ、って、ないてみたけど、父さんはにこにこ笑って、ぼくの頭をまた撫でた。それから、お家の中がすっかりからっぽになると、ぼくのお家まで片付け始めた。どうして。ぼくは、父さんと母さんの自慢の息子じゃなかったの。捨てられるの。また病院に戻るのは嫌。ぼくは泣きそうになった。

ぼくは、よくお友達の家に行くときにつかう小さな家に入れられて、車に乗り込んだ。小さな家の中には、いつも僕が使っているおもちゃや、毛布がある。ちょっとだけ落ち着いて、ぼくは毛布の上でうとうとした。
それからどれくらい経ったんだろう。ぼくは小さな家の中で目を覚ました。知らないにおいのする街。はっと立ち上がると、ちょうど父さんと母さんが僕を迎えに来たところだった。
ここはどこ、ぼくを捨てるの、と小さく聞いてみたら、父さんと母さんはくすくす笑った。外にはあの黒スーツの怪しい男。誘拐されたんだ!と思ったら、その男が僕をやさしくなでた。新しい君の家も気に入るよ。そう言いながら。
新しいぼくの家、って。なんのことだろう。ぼくの家は父さんと母さんの家なのに。

小さな家から出されて、ぼくが目にしたのは、驚くような景色だった。
緑がたくさんあって、お庭がある。お庭には、たくさんのお花。ぼくはうれしくなってお庭を走り回った。あの怪しいスーツの人、ぼくに、父さんと母さんに、新しいお家をくれる人だったんだ!

「うふふ。喜んでるわね。ここに決めてよかったわ」
「ああ。アイツも大きくなったからな。俺とお前には子供ができなかったから、あいつのことを息子だと思って育てようって決めただろ。アイツのためならなんだってできるよな」
「そうね。ありがとうございます、素敵なお家を紹介してくださって」
「いいえ。わんちゃんも喜んでくれたみたいで、私も大変光栄ですよ」
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