住宅購入を「一生モノの事業」という人は多いと思います。銀行に行くと35年物のローンのポスターが貼っていますし、不動産広告を見ても「35年ローンの場合」といった言葉が簡単に見つかるからです。35年のローンというと、仮に30歳で住宅ローンを組んだとして、完済が65歳の計算になります。現在の労働基準から考えてみると、65歳は働ける年齢ではありますが、やはり「一生モノ」であることは、間違い無いと言えるでしょう。
そのため、不動産選びは慎重に慎重を重ねて話を進めなければなりません。
さて、購入する物件がある程度決まると、その物件がどういう物かを確認することと思います。その段階で順風漫歩に話が進めば良いのですが、全部が上手く進むとは限りません。物件に問題が見つかる場合もあるからです。
ここで取り上げる計画道路の問題は、その様な物件の問題の1つと言うことが出来ます。しかし、それを「問題」と判断するのには早計過ぎます。一見すると不利と思われている中にも、実は有利な点が隠れているケースもあるからです。
そこで、この記事では、計画道路に干渉する土地の、メリットとデメリットについて改めて考えてみたいと思います。
都市計画道路について
まずは「都市計画道路」とはどのような意味なのかを解説したいと思います。
「都市計画…」と聞くと、行政の命令が絡んで来そうで、非常に怖い気分になる人も、もしかしたらいるかも知れません。しかし、しっかりと意味を理解するならば、それが全面的に怖がる必要までは無いことが分かります。
都市計画法と都市計画道路
「良い街づくり」は生活しやすい環境を作るに当たって非常に大切です。街の美観を保ったり、生活しやすいための環境を作ったりすることは、住む人のより良い生活環境を保持するためには重要だからです。そのため、街づくりには法律があります。その1つが「都市計画法」です。
ところで、都市計画法は道路の配備などに関しても定めています。と言うのも、街の機能を上げるためには、交通などをスムーズにする必要があるからです。仮にスムーズな交通が困難な場合には、消防車などの緊急車両の通行が阻害され、その被害が拡大するかも知れないからです。
ところで、都市計画道路ですが、これは都市計画法によって決められている「これから作られる道路」です。
ただし、都市計画道路はすぐに敷かれる物とは限らず、将来的に敷かれる物も含みます。そのため、購入後すぐに道路になるとは限りません。
「計画決定」と「事業化決定」の違い
都市計画道路はすぐに道路が敷かれるとは限りません。と言うのも、これには「計画決定」と「事業化決定」の2種類があるからです。計画決定とは、計画までを決めてある道路で、事業化決定とは、着手までが決まっている物を指します。
ですから、不動産広告などで計画道路の記載があったとしても、それは計画決定の段階の場合もあります。つまり道路化は将来的の話であって、すぐに工事が始まるとは限らないのです。
ちなみに、計画決定がされて、数十年も事業化がされておらず、しかも今後の事業化も見えていない物件が、いくつも見つけることが出来ます。
計画道路購入のメリット
計画道路に掛かる土地は将来的に住めなくなる可能性のある土地のため、購入をするメリットがゼロに思えるかも知れません。しかし、取得にはメリットもあります。
取得コストが抑えられる
計画道路に掛かる土地は、将来的に使えなくなる可能性のある土地なので、価値が低くなってしまいます。そのため、取得コストが大きく抑えられます。
土地の取得コストが抑えられることは、家をこれから建てる人にとって「朗報」です。と言うのも、特に都市部の場合には、不動産価格の土地の部分が大きく占めるからです。
また、土地の価格が抑えられることによって浮いた費用は、建物の購入費用に充てることも出来ます。建物は意外にオプション費用が発生しますので、その部分に費用をまわすならば、より生活しやすい家とすることが可能です。
税制優遇がある
前述の様に、都市計画道路に掛かる土地は、将来的に道路になる問題もあるため、価値が低めに設定されています。そのため、固定資産税が安くなります。
不動産の固定資産税は物件の価値に連動していて、物件の価値が高くなれば高くなり、逆に低くなれば低く抑えられます。そのため、価値が低く設定されることは税金対策上、大きなメリットと言うことが出来るのです。
また、評価と関係する税金は固定資産税だけではありません。相続税も大きく関係します。
相続税は現金や有価証券だけでなく、土地などにも掛かって来ます。そして、相続税も価値に連動しているため、価値が抑えられると、税額も安くなるのです。
計画道路購入のデメリット
都市計画道路の掛かる土地は経済的メリットがあることは分かりましたが、その一方でのデメリットはどうなのでしょうか。
事業開始のリスク
都市計画道路には計画決定の段階までの物もあり、事業計画の未定の物が多くあります。事業計画未定の物件に関しては、何年先、あるいは何十年先に事業化がされるかが不明な場合も少なくありません。そのため、経済的メリットに魅力を感じ、購入に踏み切る人も多いことでしょう。
しかし、事業決定がされるリスクは残ります。
そして、事業が着手されるならば、ケースによっては立ち退き等も要求されます。この場合は買ってもらう形になるので、費用的には問題にならないかも知れませんが、長く住み続けることを考えている場合には、大きなリスクと言えるでしょう。
建てられる建物の制限が発生する
都市計画道路は、計画段階までの物が多いのが現状ですが、それでも道路が敷かれるのを前提とされているため、建築物に制限が加えられています。
建築制限としては、2階建てまでで地下室を持たない物とされています。また、建物の構造にも制限があり、計画実施の際には、建物の移転などが簡単に出来る物とされています。
ただし、東京の場合は緩和措置があり、建物は3階建ては可能となっています。
購入前に相談・確認すべきこと
計画道路は費用が抑えられるので、取得に当たっては経済的メリットがあるのですが、事業スタートのリスクが残るので、購入に踏みとどまってしまう人も多いかと思います。
そのため、購入に際しては相談や確認をすべきことがあります。
不動産会社に相談する
不動産会社は不動産取引や建築の知識だけでなく、地元の状況についても精通しています。そのため、購入を検討している予定地に関しても良く知っているため、購入判断の有力な情報源になるのです。
特に、地元密着型で営業展開をしている会社は、地域の細かい事情に関しても詳細に知っています。地域の持つ別なメリットとデメリットを併せて考えてくれるので、良き参謀になってくれます。
役所に都市計画を確認する
役所に行くと都市計画図を見ることが可能です。土地購入にあたっての判断材料となります。
尚、八王子市の場合はネット経由で計画図を閲覧することが可能です。ネットでの情報収集が可能なのは、忙しい人にとっては非常に便利なシステムと言えます。
投資用物件を建てる場合
ここで、計画道路の掛かる土地に、投資用物件を建てることについて考えてみましょう。
八王子の街は新宿などの大きなビジネス街に行くのも便利なため、集客性の高い物件を作ることが可能だからです。
利回りはどうなるか
まずは利回りの計算について、再度確認したいと思います。
不動産投資の利回りは、基本的な計算式が、「収益を投資金額で割った値」です。投資金額には物件の取得費用がメインとなるため、土地の価格が下がって取得費用が下がると利回りが上がる計算になります。
実際には、分母となる部分に物件のランニングコストや購入の際の諸経費なども含まれるため、実質的な金額にはならないのですが、それでも土地の取得コストを下げることが出来れば、利回りを上げる点で有利です。
また、計画道路の掛かった土地は評価が低くなるため、固定資産税なども安くなります。税金が抑えられれば収益部分も増えるため、利回りが上がります。
この様に、取得コストの面と税金の面で有利なため、投資用物件としてはメリットが多いのです。
建築制限に注意する
投資用物件としての取得コストは制限されるのですが、建物に建築制限が掛かるので、建物の仕様をどうするかについては入念な計画が必要です。
と言うのも、建物の高さと階数に制限があるため、大掛かりなマンションなどの建築が出来ず、小規模の物件になってしまうからです。
しかし、低い建物とは言え、部屋の機能性を上げるなどすれば、家賃のレベルアップを狙うことが可能です。
リスクをどう捉えるか
「禍を転じて福と為す」ということわざがありますが、これはビジネスの世界でも通用する格言と言うことが出来ます。そして、リスクを抑えることに成功するならば、他の投資家が敢えて手を伸ばさなかった分野で、利益を独占することさえ可能となるのです。
例えば、計画道路に干渉し、将来的に手放すことが想定されるのであれば、建物の価値が無くなるタイミングを見越して建てる作戦もあるかも知れません。また、出口戦略に関して考えるのならば、「将来的には行政が買ってくれるから、他の投資家に売るよりも有利かも知れない」といった判断もあり得ます。
この部分は確かに投資家によって判断は分かれるのでしょうが、方向性によっては大きなビジネスチャンスにもなり得ることを覚えておきたい物です。
まとめ
計画道路の掛かる物件は、どのくらいの面積が干渉しているかにもよりますが、取得金額が抑えられるメリットがあります。また、仮に立ち退きの話が出た場合でも、結構な大金を出してもらえます。
ただし、長く住み続けるのであれば、移転する危険性はいつまでも抱えることになりますので、もしかしたら魅力は欠けるかも知れません。しかし、事業決定されていたとしても、予算がなければその事業は進みません。計画道路に入っているとしても、事業が進まないのであれば、形だけの可能性は十分にあり得ます。
ですから、基本的にはおすすめなのですが、一部売却しても困らない程度であるならば、その人の判断で決めるのが良いでしょう。