最近の新聞紙上を賑わした不動産の問題の1つに、レオパレスの問題があります。この報道を振り返ってみると、アパートの天井裏に本来あるべきの「界壁」が無く、そのために住んでいる人が「隣の音が聞こえる」などといった声が上がっていたことなどが、問題点として挙げられています。
しかし、単に「界壁」と言っても、今ひとつピンと来ないかも知れません。「界壁」という用語は建築などで使われる言葉で、あまり一般的では無いからです。
そこで、この記事では界壁について、レオパレス問題と絡めて説明したいと思います。これにより、レオパレスの問題と、この問題を通して、不動産はどの様にあるべきかが分かることでしょう。
界壁とは何か
まずは問題のカギとなっている「界壁」について解説したいと思います。
界壁はアパートなどの住宅で、小屋裏や天井裏に設置する壁を指します。そして、屋根裏に設置する界壁は天井の裏から屋根材の裏側まで達しなければならないと定められています。つまり、界壁によって、隣の部屋と屋根裏部分でも仕切られていなければならないのです。
また、界壁には防音性能や防火性能が必要とされています。この壁の構造についても規定があり、自分の都合で仕様を変えてはならないことになっています。
ちなみに、仮に構造規定を守らない場合を考えてみると、建物としての機能に、著しい不具合点が発生します。界壁で仕切られていないことは、本来あるべきはずの防音性も防火性も備わっていない危険性が出て来ます。そうなると、防音性の目的とされた、騒音の防止やプライバシーの問題が発生し、防火性能も失われるので、隣室での火災に逃げ遅れる場合も出て来ます。ですから「隠れている部分の壁一枚」と軽視されるべき箇所では無く、非常に重要な部分と言えるのです。
界壁の仕様
界壁は防火性能と防音性を併せ持つ必要があります。と言うのも、界壁がしっかりと造られていないと、遮音性が損なわれてしまい、防火性能も落ちてしまうからです。そのために、防音性及び防火性に十分に強い仕様となっています。
さて、界壁ですが、基本的な構造としては、グラスウールやロックウールを石膏ボードで挟む構造となっています。これにより、防音と防火は担保されます。グラスウールやロックウールには、音のエネルギーを熱に変換する機能があるからです。また、石膏ボードは火に燃えないため、火災が仮に発生したとしても、延焼を食い止めることが可能で、住人の避難の時間稼ぎに有用だからです。
界壁の役割
次に、界壁の役割について説明します。
前にも挙げた様に、界壁は天井裏に建てる壁ですが、役割としては、主に防音と防火があります。
それぞれの内容について、詳細に見て行きましょう。
防音
前述の様に、界壁にはグラスウールやロックウールが入れられます。ただ、グラスウールやロックウールも単に入れれば良い訳では無く、仕様が決まっています。グラスウールに関しては、かさ比重が0.02以上、ロックウールに関しては、0.04以上と規定されています。
尚、グラスウールやロックウールなどの繊維系の素材の吸音効果は、繊維の混み具合によって、吸音効果が変わります。一般には繊維が混んでいる物、詰まりかさ比重が上がると、それだけ吸音効果が向上するのです。
そのため、仮にこの繊維系の断熱材の量を少なくした場合には、効果として狙っている防音性能を満足することが出来なくなってしまうため、建物として持つべき騒音の問題や、プライバシーの保護が出来なくなってしまいます。
防火
建物の防火には、2つの側面があります。「火炎に対する防護」と「煙に対する防護」です。防火を謳う以上は、この両者の性能が必要なため、定められた仕様を落とすことは出来ないのです。ですから、例えば、せっこうボードを薄い物を使うなどの、勝手な仕様変更は許されないのです。
尚、界壁のある天井裏は居室の更に上に位置するため、炎が上がった場合には最も温度が高くなる部分と言うことが出来ます。そのため、特に炎対策は重要となります。また、火災の時の煙は天井から天井裏に上ります。そのため、仮に火炎の温度で界壁がダメージを受けて仕切れなくなると、煙が隣室にまで行ってしまい、隣人まで危険になってしまうからです。
この様に、防火性能を細かく考えて行っても、界壁は非常に重要となります。勝手な変更は認められないのです。
界壁の不備について
ところで、単に「界壁に不備がある」と言っても、パターンは1つではありません。大きく分けると、次の3つパターンが存在します。
界壁そのものが無い
まず挙げられるのが「界壁そのものが無い」ケースがあります。
これは天井材の仕様にもよりますが、防音性能も防火性能もあまり期待出来ないことが考えられます。
例えば、音について考えてみるならば、テレビの音や会話の音が天井裏を経由して隣室に流れてしまいます。
また、火災に関しては防御部分が無いため、非常に危険になります。
界壁に欠損が見られる
界壁は隣室と全部が仕切られていなければなりません。と言うのも、界壁の一部に欠損がある場合には、その部分から音や炎が漏れてしまうからです。
音の例を考えてみると、会話などで伝わる音は空気音となるため、気密性がそのまま音の漏れに繋がります。また、炎の場合を考えても、欠損の状態によって火のまわるスピードも変わるので、建物の安全性まで変わります。尚、煙もこれと同じで、欠損部分の状態によって、煙がまわるスピードが変わります。
別な素材に置き換えられる
界壁は仕様が決まっています。そのため、勝手な仕様変更があってはなりません。
例えば、界壁の中に居れるグラスウールやロックウールを、例えばセルロースファイバーなどに置き換えると、防火としての性能が損なわれてしまいます。また、発泡プラスチック系の断熱材を入れたとしても、防火などの問題が発生します。ちなみに、これらはかさ比重が決まっていて、勝手に低い物に換えることも出来ません。
次に、せっこうボードを変えた場合も考えます。これもやはり防火性能が落ちてしまうことが考えられます。そうすると、火や煙のまわりが早く、建物の安全性が損なわれます。
レオパレス問題について
レオパレスは共同住宅で有名な会社で、多くの投資家のために高水準のアパートを提供して来た会社とも言えます。しかし、「隣の部屋のチャイムの音が筒抜けで聞こえてしまう」などの低評価の物件もありました。
そんな中で、とある不動産オーナーが物件の不備に気が付き、問題が表面化した…というのが、問題発覚からの大まかな経緯です。
尚、問題となった「界壁の無い建物」は、立派な違法建築の建物です。
それでは、レオパレスの問題物件は、どの様な状況だったかについて、次に挙げたいと思います。
界壁の無い物件があった
まず挙げられるのが、界壁そのものが無かった物件です。これは防音性が非常に低くなってしまう物件です。
先に挙げたチャイムの音の例で見られる様な不具合が発生します。また、会話なども隣に筒抜けになってしまいますので、非常に良く無い物件です。
また、防火性能も無いので、火災が発生した場合、天井経由で隣の部屋にも早く火が回ることもありますので、非常に危険でもあります。
また、仮に売却をしようとしても、ホームインスペクションなどで調べられれば、この不具合はすぐに分かってしまい、売却が難しくなります。
この様に、普段使う上でも、売却するにおいても大きな問題を抱える物件になってしまうのです。
界壁が別の素材に置き換えられていた
次に挙げられる問題は、界壁が別の素材に変わっていた問題です。界壁はグラスウールやロックウール、そして石膏ボードが使われますが、レオパレスの物件には発泡ウレタンが入っていた物件がありました。
発泡ウレタンはプラスチック系の素材のため、防火性などの点で劣り、しかも防音性も落ちてしまいます。そのため、界壁としては性能が不十分となります。
また、この様な物件も売却しにくい物件になってしまいます。仮に外観が良い物件であっても、ホームインスペクションなどで問題が発覚する可能性もあるからです。アパートを購入する人は、多くの場合が不動産投資を目的としています。そのため、物件のチェックは非常に厳重になります。問題がある物件は、当然ながら売却は困難です。
天井部の不備
また、レオパレス問題は界壁以外にも、天井部の不備もありました。
天井材は火災が発生した場合には、火炎によって炙られるため、非常に温度が上がります。そのため、耐火に関しては念を入れなければなりません。そのため、法規の上でも耐火のための規定をしてあります。
しかし、レオパレスの物件は、この必要な耐火構造を満たしていません。
この場合、仮に火災が発生した場合には、天井部分で火炎を食い止めることが難しくなる場合があり、危険です。
耐火構造上の不備
これも界壁以外の部分で、主に外壁部分の問題です。
外壁は火災の発生時に、隣家への延焼を食い止めるために、仕様に様々な規定があります。主な規定としては、断熱材の仕様、部材の配置、使用するパネル材などです。
この内、レオパレスの物件は断熱材にグラスウールなどを使うことになっていたのですが、レオパレスの現場では発泡ウレタンを使っていた…と言う物です。
発泡ウレタンは耐火性に問題がある素材のため、仕様を変えると、危険な建物となってしまうのです。
まとめ
レオパレスの問題は天井や外壁の問題も大きかったのですが、やはり最大の問題は界壁にあったと思われます。防音や防火のために、界壁はどうしても必要だからです。アパートなどの長屋住宅には、界壁が欠かせないのです。
ですから、特に賃貸物件を購入する不動産投資家にあっては、購入する不動産の天井も確認し、きちんとした物件を購入するようにしましょう。