不動産を資産として持っていて、アパートやマンションなどの土地活用で利益を上げる人は多いです。
彼らはビジネスセンスに秀でていて、資金と物件を縦横無尽に操って利益を上げます。
しかし、その技術は万人の物とは言い難いのが現実です。むしろ、利益を出すのに苦労する人も多いことと思われます。
さて、不動産は自分で持っていて自力で利益を出すばかりが、経済的メリットを享受する手段ではありません。
持っている不動産を他の人に託して運用してもらう方法もあるからです。
そして、それに関与するのが「信託財産法」という法律です。
ところで、不動産は相続に関してのメリットが大きい資産ですが、ネックになるのが相続税です。
しかし、この信託財産の利用によっては、相続税を払わなくても良いケースも…実はあります。
では、どの様にすれば相続税を回避することが出来るのでしょうか。
まずは、信託財産法についてアウトラインを述べたいと思います。
信託と信託財産法
信託は財産の管理に関するシステムで、財産の所有者が他の人に所有している財産を預け、その預けられた人は一定の目的に従って活用し、そこで発生する利益などをまた別な人のために還元する物です。
信託財産法はこのシステムに関する法律です
仮に、財産の信託が仮にルール無しで行われた場合、ひどい場合には預けられた資産を預けた人の意図に反する使い方をするかも知れません。その結果、財産を預けた方が大きな被害を被ることもあり得ます。
ですから、財産信託には厳格なルールが必要で、そのために信託財産法があると言えます。
委託者・受託者・受益者
信託財産法を見てみると、財産信託には「委託者」「受託者」「受益者」の3つの立場があることが分かります。それぞれを見てみると以下の通りに分かれます。
- ・委託者…財産の元々の所有者で、財産を委託する人
- ・受託者…委託者とは別の人で、財産を預けられる人。そして、預かった財産を運用して利益を上げる人。
- ・受益者…受託者が得た利益を受ける人
ですから、不動産の信託の場合では
・委託者…不動産の元々の持ち主。
例えば、一棟マンションのオーナーなど。
・受託者…委託者の不動産を運用して利益を受ける立場。
例えば委託者の持っているマンションを運用して家賃収入などを得る立場
・受益者…受託者が得た家賃収入を得る人
尚、委託者と受益者が同一の場合もあります。
この場合、一棟マンションのオーナーが所有しているマンションを他の誰かに預け、そこで発生した利益を、オーナーが受け取る恰好になります。
家族での場合
ところで、財産の所有者が一家の主人で、死亡時の相続予定者が子供であるとして、不動産を信託する場合、相続の流れが少し厄介になります。
と言うのも形式ではありますが、財産の所有権が移るからです。
不動産が委託者から受託者に移る場合、所有権移転登記が行われ、権利が受託者に形式上移ります。
そして、その段階で委託者が死ぬと、受託者の財産所有はそのまま残ります。
そして、相続されるのは委託した立場であって、財産の所有権ではありません。
また、この財産を受託者から子供に移す場合には、贈与となります。
まわりまわっての相続の様にも見えますが、位置づけとしては、あくまでも贈与なのです。
一棟マンションの例で行くと…
それでは、この流れを先に挙げた一棟マンションの例ではどうなるのでしょうか。
まず、親であるマンションのオーナーが子供を相続予定と考えます。
その一方で、不動産管理の仕事を信託で任せ、自分はその不動産で発生する利益を受益者として取ろうとします。
そして、マンションを不動産管理会社などに委託します。
そうすると、不動産管理会社はマンションを運用して、家賃収入を得ます。
そして、家賃収入を受益者でもあるマンションオーナーに還元します。
さて、マンションオーナーに不幸がありました。相続予定者は子供です。
委託されたマンションは、この子供の手に渡るのでは無く、マンションの受益権が渡ります。
マンションは受託者である不動産管理会社の所有のままです。
そして、このマンションを子供に引き渡す場合には、贈与となり、子供には贈与税の納付義務が発生します。
ちなみに、マンションオーナーがマンションを委託せずに子供に残すのであれば、贈与税では無く相続税が発生します。
この様に、信託を通すか通さないかで、贈与税か相続税かが分かれるのです。
相続税について
この様に、財産の流れによって、相続税になる場合と贈与税になる場合があります。
それでは、相続税はどの様な仕組みの税金なのでしょうか。
どんな物に掛かるか
相続税が掛かる物は多岐に及びます。
具体的には、現金、預貯金、有価証券、土地、家屋、宝石などの貴金属、特許権や著作権などの知的財産権、そして美術品は趣味で集めたコレクションなどにまで及びます。
基本的には金銭に見積もることの可能な経済的価値のある物全てが対象です。
ですから、例えばテレビ番組などで家財を鑑定してもらい高額な値段が付いた場合…床の間に飾っていた花瓶に300万円の価格が付いた場合には、その花瓶も課税対象となり、一定の税率が300万円に掛かる恰好になります。
ただし、掛からない物もやはりあります。例としては、墓地や仏壇など、或いは生命保険の非課税枠、死亡退職金の非課税枠があります。
基礎控除
相続税には基礎控除があります。控除額は以下の通りです。
・基礎控除額=3000万円+600万円×法廷相続人の数
例えば、相続人が配偶者と子供2人とすると
基礎控除額=3000万円+600万円×3=4800万円となります。
そして、当然ながら、控除額より少ない資産の場合には相続税は発生しませんので、この場合は4800万円までは納付の必要はありません。
税率
相続税は累進課税となっており、相続額が多ければ多いほど税率が上がります。具体的には以下の通りです。
- ・1000万円以下…税率10%、控除が無し
- ・3000万円以下…税率15%、控除50万円
- ・5000万円以下…税率20%、控除200万円
- ・1億円以下…税率30%、控除700万円
- ・2億円以下…税率40%、控除1700万円
- ・3億円以下…税率45%、控除2700万円
- ・6億円以下…税率50%、控除4200万円
- ・6億円を超える場合…税率55%、控除7200万円
ですから、仮に2000万円であれば、控除が50万円となり、1950万円に税率15%で掛かります。
ですから税額は約290万円です。
その一方で、仮に10億円を持っている人であれば、基礎控除を引くと9億2800万円となり、そこに税率が55%掛かります。
約5億1000万円の税金が掛かる計算となります。
贈与税について
次に贈与税について解説します。
どんな物に掛かるか
贈与税も広い範囲で掛かります。
基本的には1年間で110万円を超えた財産を受け取った場合に課税されます。
また、仮に物のやり取りで無かったとしても、発生する場合もあります。
例えば、親に多額の借金をして、それを免除してもらった場合にも発生します。
また、親に返済不能の金額を、無利子で督促無しを条件にして借りた場合においても贈与税が発生します。
つまり、一般のサラリーマンが親族から10億円借りた際、その条件に「無利子で督促しない」点が盛り込まれている場合には、贈与税が発生するのです。
控除
控除額は年間で110万円です。
ですから、1年間にもらった物が110万円を超えた場合には贈与税が発生します。
ちなみに、110万円は複数の人からもらった場合の合計の金額です。
ですから、ある人に60万円の物をもらい、別の人に70万円の物をもらうのであれば、合算が110万円を超えるので贈与税が発生します。
しかし、最初の人に60万円の物をもらい、次の年に70万円の物をもらうのであれば、年額で110万円に満たないので、贈与税は発生しません。
税率
税率は相続税と同じ様に累進課税となっています。
全体的に見ると、相続税よりも高い設定です。
- ・200万円以下…10%(10%)
- ・300万円以下…15%(15%)
- ・400万円以下…20%(15%)
- ・600万円以下…30%(20%)
- ・1000万円以下…40%(30%)
- ・1500万円以下…45%(40%)
- ・3000万円以下…50%(45%)
- ・4500万円以下…55%(50%)
- ・4500万円を超える場合…(55%)
※( )内は特例贈与財産と呼ばれ、父母や祖父母などの直系尊属からの財産取得の場合です。
相続税を払わなくていい場合
それでは、相続税を払わない方法とはどの様な物があるのでしょうか。
贈与税か相続税か
前述の様に、相続財産を信託にする場合には、相続税は発生しません。
しかし、仮に相続税を回避出来たとしても、贈与税が発生します。
したがって、最終的に経済的なメリットを求めるならば、「相続税か贈与税か」を選ぶ必要もあります。
そして、どちらを選べばメリットがあるか…が焦点になりますが、これは完全にケースバイケースです。
ただし、傾向としては、持っている資産によって決まり、資産家の方が贈与税を支払う方が、一般の人が相続税を納める方がメリットが大きいです。
ただし、資産家の人は財産を多角的に持っている場合もありますし、家族も多いです。
また、ドラマなどに見る様に、「親族の誰もが知らなかった子供」が名乗りを上げて来る場合もあります。…レアケースだらけのケースバイケースの様です。
専門家に確認しましょう
税金はある意味「強制的に出て行くお金」であり、しかも法律がバックについている膨大とも言える強制力があるとも言えます。
そのため、細かく計算するためには専門家の手腕がどうしても必要です。
相続などに関しても専門家がいますので、困った場合には相談しましょう。
まとめ
以上から、信託財産法の仕組みや、それぞれの立場についてイメージが出来たことと思います。
また、相続税は免れる方法があること、ただし贈与税が付いて回ることも分かったことと思います。
そして、経済的なメリットは、どちらの税金を選ぶかについて決まることも把握出来たと思います。
ただし、資産管理の上で信託にすることは相続以外にもメリットはあります。
管理の業務が省けるなどのメリットも勘案して決めることが大切です。トータルで考えて方向性を出しましょう