快適な生活を送る上で、風呂場の存在は欠かせない物と言えます。
1日の疲れを癒すためにも、或いは安眠のためにも、入浴は必要だからです。
そのため、家づくりにおいても「浴室をどうするか」という課題は重要です。
ところで、古い住宅…浴室が在来工法で造られている家の場合、リフォームをする時に迷う点があると思います。
浴室を在来工法で造るか、ユニットバスに変えるか…という点です。
そこでリフォームの広告などを見てみると、ユニットバスのリフォームが圧倒的に多いのに気が付くと思います。
それでは、なぜユニットバスが多いのでしょうか。
ここでは、在来工法の風呂とユニットバスを比較して、なぜユニットバスが良いかを考えてみたいと思います。
在来工法の風呂とユニットバスの違い
まずは、在来工法の風呂場とユニットバスについて比較してみましょう。
在来工法の風呂の特徴
在来工法は昔から作られて来た建築工法で、柱や梁などで組む構造の建物です。
風呂場の場合は、部材を組み付けた上の、浴槽を設置してタイルなどで床などを仕上げるのが一般的です。
工法として、水漏れの対策を完璧にすることが必要で、職人の腕により、出来栄えが左右されます。
そのため、仮に職人の技量が未熟の場合は、漏水などのリスクが高くなります。
浴室としてのメリットは、浴室を作る上での自由度が比較的高いことです。
例えば、天然の檜風呂などの「こだわりの風呂」を作ったり、広い風呂場を作る場合に向いています。
しかし、施工のコストが高い、カビが生えやすい、浴室内の温度が下がりやすいなどのデメリットもあります。
そのため、一般仕様の住宅で特にこだわりを前面に出した家で無い場合は、少なくなっている工法です。
ちなみに、新築住宅の場合は、在来工法で作った風呂場はあまり見ません。
ユニットバスの特徴
ユニットバスは、浴槽やシャワーなどが1つのユニット化された浴室で、近年の住宅で多く設置されています。
リフォームの広告などを見ると浴室のリフォームが記載していますが、多くの場合にはユニットバスのリフォームとなっています。
ユニットバスの特徴としては、詳しくは後述しますが、漏水のリスクが在来工法の浴室よりも少ないこと、気温の変化が少ないこと、バリアフリーに対応しやすい、ヒートショックリスクが低い、リフォームがしやすいことなどが挙げられます。
ただ、浴室が一体で規格化されているため、広い浴室にしたり、こだわりの素材で作るのには、あまり向かないデメリットがあります。
漏水の危険性を改めて考えると…
浴室は水を多く使う場所です。
また、仮に浴室工事に不備があると漏水が発生します。
ところで、特に木造住宅の場合、住宅を構成している部材は基本的に、水に強くはありません。
ここでは、仮に漏水があった場合、どの様なシナリオが考えられるかについて考えてみましょう。
浴室から漏れた水はどこに行くか
ここで、浴室から漏れた水がどこに行くかについて考えてみましょう。
浴室から漏れた水は、浴室の下の部材に染み込み、それが進行すると、部材を伝わって水滴として落ちるレベルまで達します。
そして、その部材を濡らした水は、高湿度のため乾きにくく、長い時間が経ちます。そうすると、部材の腐食のリスクが高くなります。
シロアリのリスクに繋がる
さて、水に濡れた部材は腐食が始まりますが、部材の腐食の次に、深刻な2次被害のリスクが発生します。…シロアリの被害です。
シロアリは乾燥した木材よりも、濡れて腐った木を好みます。そのため、水に濡れた状態で腐ってしまった場合、シロアリ発生のリスクが高くなるのです。
木の腐食の危険性とは
木造住宅の場合、木の腐食が大きな被害に繋がることは想像に難しく無いと思います。
しかし、どの様なプロセスで腐食するかを知ることは重要です。
ここでは、木の腐食プロセスについて、改めて解説します。
水が漏れると…
浴室から水が漏れると、浴室を支持している部材を濡らしてしまいます。
水濡れは最初は非常に小さな物かも知れません。
しかし、浴室床下部分の湿度を上げ、木材にとって良く無い環境が出来上がります。
また、水濡れが更にひどくなると、水滴が部材を伝わります。
ここで知っておきたいのは、水は部材の接合面に溜まりやすい点です。
部材と部材の継ぎ目に、毛細管現象によって水は入り込みやすいのです。
そして、部材の継ぎ目の部分で腐食が始まると、浴室を支えている構造材に、大きなダメージを与えることになります。
床下の強度が落ちる
さて、浴室の下の部材を考えてみましょう。
部材は構造材が組み合わされて作っていますが、部材の接合部は水が溜まりやすいです。
ところで、部材を組んだ時、一番力が加わる部分は部材の接合部です。
この部分が腐食すると、著しく強度が落ちてしまいます。
部材の破損しやすい部分は接合している部分なので、接合部分の強度低下は、非常に危険と言えるのです。
破損に繋がる
さて、ここで建築部材の重量について考えてみましょう。
例えば、在来工法の浴室ですが、タイルで仕上げることから、非常に重いです。
そして、その重さが常時腐りつつある部材に加わることになります。これは、建物としても、非常に厳しい状況です。
この状態は、ケースにもよりますが、浴室まわりの破損にも繋がります。
シロアリの危険性とは
次にシロアリの被害について考えてみましょう。
前に挙げましたが、シロアリは湿った木を好みます。
そのため、床下の湿度を上げるのは良く無いです。
それでは、シロアリの被害はどの様に進むのでしょうか。
古い建物の場合
ここで、古い建物について考えてみましょう。
昔の建物は今の住宅と基礎の部分が違うケースが多いです。
今の基礎はベタ基礎を採用しており、シロアリの侵入に対して強いです。
しかし、昔の住宅の場合は、独立基礎や布基礎の物も多く、地面からのシロアリの侵入を許してしまいます。
そのため、床下を乾燥させることが非常に大切になるのですが、仮に風呂場から漏水が発生した場合、湿気がこもってしまい、木が腐りやすくなります。
静かに蝕まれる
シロアリ被害の厄介な点は「静かに蝕まれる」点であるとも言えます。
特に、床下の場合には、被害の状況が分からないため、気が付いた時には被害が進行している場合もあるのです。
そして、シロアリ被害は浴室下の部材だけに留まるとは限りません。
シロアリが仮に別の部材にまで進行したならば、更なる被害も考えられるのです。
この「被害の拡大」も非常に静かに進行します。そしてある日…大きな破損が発生するのです。
家の破損や倒壊のリスク
さて、木造住宅の構造をもう1度考えてみましょう。
木造住宅は木材を組み合わせて作っています。
そして、先にも挙げた様に、接合面は組合せてあるため、水が溜まりやすいです。
そして、毛細管現象もあるので、水の被害を受けやすい部分でもあります。
そして、水が溜まるとシロアリ被害が発生しやすいのです。
次に、在来工法の風呂場について思い出してみます。
在来工法の風呂場は、漏水リスクがユニットバスよりも高いです。
そのため、部材の腐食リスクが高くなり、更にはシロアリ被害のリスクも上がります。
つまり、漏水発生リスクの高い方…つまり在来工法の風呂場の方が、家の破損や倒壊のリスクが高いと言えるのです。
ユニットバスが良い理由
さて、冒頭にも挙げましたが、今ではユニットバスが増えています。
これはユニットバスに様々なメリットがあるからと言えます。
前に少し触れましたが、ユニットバスのメリットについて再確認をしてみましょう。
漏水リスクが低い
ユニットバスは浴槽、シャワー、洗い場などが一体になっているので、構造的に漏水リスクが低くなっています。
在来工法の浴室の場合、セメントベースとなっているので、柔軟性などに乏しく、外から大きな力が掛かった場合には、破損しやすいです。
しかし、ユニットバスであれば、全体が一体化されていて、セメントなどよりも柔軟性のある素材で造られているため、破損もしにくく、水も漏れにくいのです。
バリアフリーに対応しやすい
次に挙げられるのが、バリアフリーに対応しやすい点です。
例えば、浴室に入るドアなどは、今の物は段差の解消が出来ています。
そのため、つまずくリスクは非常に低いです。
また、滑りにくい床などを備えるユニットバスも出ています。
また、浴室には手すりが設置されているので、お年寄りでも使いやすい構造となっています。
ヒートショックのリスクが少ない
ユニットバスの特徴に「浴室全体の温度が均一になりやすい」メリットがあります。
構造として、全体が一体化されていて、1つの部屋になっているからです。そのため、ヒートショックのリスクの低減に有用です。
ヒートショックは、浴室内と脱衣場の気温差が大きい場合にリスクが大きくなります。
ユニットバスの場合には、在来工法の浴室よりも気温差が少ないため、ヒートショックを少なくすることが出来るのです。
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リフォームがしやすい
ユニットバスはリフォームしやすい点もメリットの1つです。
浴室は水を使うので劣化がしやすいです。
そのため、ある程度の年数が経ったらリフォームの必要が出て来ます。
そこで、浴室の工事をすることになるのですが、ユニットバスの場合はユニット化されている部材を組み立てて設置するので、在来工法の風呂場などと比較すると、工期も短く、しかも安く出来ます。
尚、在来工法の浴室を同様の在来工法の浴室にリフォームする場合には、ユニットバスよりも工事が大掛かりになり、費用も上がります。
まとめ
在来工法の風呂場とユニットバスの違いについて見て来ましたが、ユニットバスの方がメリットがあることが分かったことと思います。私は、不動産会社と建築士事務所を経営しており、多数の浴室を見たことがあります。その中で在来工法で造った風呂はほとんどの確率で、下の木が腐っていたり、シロアリの温床になっていました。直せばいいだけなので在来工法の風呂が悪いわけではありません。
温泉街の風呂は在来工法ですので、自由度も高く、雰囲気を作ってくれます。しかし、家づくりは限られた予算の中で、より良い品質の空間を作ることが大きなポイントとなります。ですから、浴室リフォームを検討する場合には、在来工法の風呂場を選ぶより、ユニットバスをおすすめします。